アーカンソー州兵イラクへ その2 と 憲法9条

 アーカンソー州兵イラクへ その1に引き続いて感想を綴ります。 

 第3回は、任務で負傷した州兵や休暇で一時帰国した州兵を追っていました。イラクでの自分に矛盾を感じていた牧師は、任務中重い物資の運搬中に頚椎症にかかります。幸い手術の必要性はなかったものの前線での任務は不可能になりました。故郷に戻り州兵事務所の電話番になりました。周囲は彼を仮病だと噂します。家族とともに過ごせる喜びと、前線で戦えない不甲斐なさとで情緒不安定な日々が続きます。彼は必死に、「本当は仲間とともに戦いたいんだ、でもそうしたくても出来ないんだ」と言います。しかし彼の心の奥底には、「自分は死ぬのが怖いんだ、戦うなんて出来ないんだ」という至極真っ当な感情があるのでしょう。でもそうは言えないのです。

 任務中左腕と顎に大怪我を負い生死をさまよい帰還した男は、故郷に戻りみんなから温かく迎えられました。暴力をコントロールできないとの理由で帯同を許されなかった息子は、父親だけを戦場に行かせたことに自責の念を感じます。電気洗濯機製造の熟練工だった父親は、負傷のために以前の仕事に復帰することも叶いません。しかし彼は「イラク戦争は間違いではない。もう一度イラクに行けと言われれば、また行くだろう」と息子に語ります。息子の気持ちを慮って言ったのかもしれませんが、たとえ負傷し人生が台無しになったとしても、犬死であることは決して認めたくないのでしょう。その気持ちは良く分かります。

 いくらの私でも、戦死した方や負傷した方に、あなたは犬死だとは彼らの無念を思うととても言えません。しかし、もし私や息子が将来戦争に行くかもしれないとき、戦争で死ぬということは犬死なのだ、だから戦争には行くまい、行かせまい。仮に行った時、どんなに卑怯だと誹られても絶対に死ぬまいと、私は思います。だから、「僕の愛した二つの国、ヨーロッパ・ヨーロッパ」の主人公や、三国連太郎さんの勇気に敬意を感じます。
 戦争に行ったら、相手を殺すことも、自分が死ぬことも、飢えて野垂れることも、感染症で死ぬことも、仲間を見捨てることも裏切ることも、略奪することも凌辱することも、きっと何でもするでしょう。戦場はきれいごとでは済まされない世界に違いありません。ひとたび戦争が起こってから理性やバランス感覚、柔らかい感性を働かすのは至難の業です。ひとたび戦争に参加してしまったら自らの体験や行為に崇高な意義を付けずにはいられなくなるでしょう。
 
 しかし、戦地に赴き人間性を維持することや、どんな暴力にさらされても戦争に行くまいと抗することや、あるいは戦争に行ってサバイブするために逃げ回ることのほうが、はるかに困難なことでしょう。戦争に行かなくてすむように今戦争に反対する事のほうが遥かに現実的です。そして憲法9条を護ることのほうが、遥かに現実的なのです。今こそ、理性と感性を総動員して、戦争への道を開くことを止めなくてはと思います。


 第4回では、あと40日で任務終了というときに、仲間の一人が狙撃され命を落とします。彼はまだ24歳でイラクに派兵される1週間前に娘が生まれたばかりでした。彼はイラク国民選挙に向けて治安の監視に従事していました。狙撃された彼と150mと離れていなかった同室の若者たちに動揺が走ります。選挙の結果なんてどうでもいい、とにかく無事終わってくれ。生きて帰るのみだと若干20歳の若者は言います。何も考えずに州兵に登録した自分だったけれどよくよく考えて欲しい、イラクの子どもはいつ爆撃されるかも知れず外に出て走り回ることも許されない現実を想像してほしいと、後輩たちに訴えます。戦争はきれいごとじゃねえ。戦争に行かずにいろいろいうやつは信じない、と戦争をおっぱじめたブッシュや権力者を暗に批判します。
 
 とにかく1年にも及ぶ任務を終え無事に故郷アーカンソーに帰ってきました。私もほっと安堵を覚えます。しかし、全体を通じて、イラク側からの視線はまったくありません。また、彼らはイラク人に向けて銃を撃ったのかどうかの描写もありませんでした。自分が殺られるかもしれない緊張と不条理は描いていますが、自分が殺す罪悪や不条理は描いていません。州兵だったのでそういう任務になかったのかもしれませんが、作り手の問題が大きいように思われます。極力中立を保とうという製作者側の思惑はなんとなく分かるのですが、本田勝一の「事実とは何か」にあるように、いろいろある事実のなかで何を伝えるか、究極的には中立はありえないということだと思います。少なくともこの戦争は侵略だと思うか、10倍ものイラク人が死んでいるという現実をどう思うかという質問があってしかるべきだった様に思われます。全体として声高に支持も批判もしないけれど、イラク戦争を容認する姿勢に貫かれている作品だと思いました。

 以上感想でした。
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by pantherH | 2006-03-16 19:35 | Under the Sun
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