「ほっ」と。キャンペーン

カテゴリ:映画( 3 )

喜びと悲しみと

今日は嬉しいニュースと悲しいニュースがありました。

 嬉しいニュースは、私のお気に入りのイギリスの社会派映画監督 ケン・ローチがカンヌ映画祭でパルムドールに輝いたことです。これまでにもカンヌ映画祭批評家賞などを受賞していましたが、今回「The Wind That Shakes the Barley(原題)」で初めてパルムドールを受賞しました。
 私がケン・ローチ監督作品に初めて出会ったのは、大学生の頃、当時足しげく通っていた映画館でケン・ローチ特集が企画され、なんとなく観た『ケス』でした。

 貧しい家庭に育った少年は学校にも馴染めず、日々もやもやを抱えながら過ごします。彼の唯一の心のふれあいは隼の子どもを飼育し調教することでした。トリフォーの『大人は分かってくれない』を髣髴させるような、少年のガラスのように繊細な心を見事に描き、何と言う感受性の監督だろうかと驚嘆したのでした。その後『レディーバード・レディーバード』では、青少年保護法により救われた母親でしたが、同じ青少年保護法のもと育児資格なしと福祉課によって認定され、子どもが唯一の支えで、子どもたちも母親を愛し、必要としているにもかかわらず引き離されてしまうという「法の二面性」とそれに翻弄される不条理を描きました。
 スペイン内戦を描いた『大地と自由』では、ファシスト対レジスタンスという単なる2項対立で描くのではなく、まさに玄耕庵日乗の素楽さんが、W.リップマン『世論』から引用している、
自分たちの意見は、自分たちのステレオタイプを通して見た一部の経験に過ぎない、と認める習慣が身につかなければ、われわれは対立者に対して真に寛容にはなれない。その習慣がなければ、自分自身の描くヴィジョンが絶対的なものであると信じ、ついにはあらゆる反論は裏切りの性格を帯びていると思いこんでしまう。人びとはいわゆる「問題」については裏表があるということは進んで認めるが、自分たちが「事実」とみなしているものについては両面があることを信じていないからである。

という視点で戦争やイデオロギーを描いています。
 移民の仕事や結婚にまつわる問題を描いた『ブレッド&ローズ』や『やさしくキスして』など、彼の映画は一貫して、勧善懲悪、二項対立を排し、人そのものがその両面を宿しているという視点で、丁寧な映画作りをします。漸く時代が彼の主張に耳を傾けなくてはと思い始めたのかもしれません。DVDが欲しくて探しても、DVDになっていないものが多いようで、今回の受賞を機にこれまでの作品がDVDになるのを心から期待しています。本当に受賞されて嬉しいです。

 一方、大好きな作家、米原万里さんの訃報が届きました。56歳というあまりにも早い死をとても悲しく思います。昨年末に発刊された『必笑小咄のテクニック』を読んで彼女が卵巣癌を患っていることは知っていたのですが、ネットで訃報を知ったときには涙が出そうになりました。

 彼女の軽快で下ネタ満載のエッセイも面白いですが、やはり『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と『オリガモリソヴナの反語法』は寝ることも忘れて読み続けてしまった本でした。随所に溢れるユーモア、歴史に翻弄される人々の悲しみとそんなことに全く屈しない逞しさに満ちた登場人物たち。人間が生きるということ、同じ世界でこんな人生を送っている人々がいるということに、深い感慨を抱かせる本でした。次の彼女の小説を心待ちにしていました。最近、私の大切な人がどんどん亡くなっていってしまうような気がしてなりません。本当に残念です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
[PR]
by pantherH | 2006-05-30 00:00 | 映画

ヴェロニカ・ゲリン

 読み朝る毎ブロガー同盟という同盟があります。国民に伝えるべきことを伝えず、小泉改革のまやかしを支えた大手新聞社に、ちゃんと伝えなきゃいけないことを公正に伝えてくれ、というメッセージを伝える同盟です。911選挙以降、テレビも殆ど見なくなり、新聞を読んでいても気分が悪くなるような日々が続きます。そんな折り、DVDで「ヴェロニカ・ゲリン」(ジョエル・シュマッカー監督、ケイト・ブランシェット主演)を見ました。

 物語は、赤いスポーツカーに乗ったヴェロニカ・ゲリン(ケイト・ブランシェット)が射殺されるシーンから始まる。

 子どもたちにも麻薬が蔓延し、麻薬利権を巡るマフィア同士の抗争で毎週のように起こる殺人事件。バイヤー達が白日堂々と麻薬を売りさばき、警察に告発した者は確実に消される。人々は、通りで子どもが注射針で遊んでいるのを見ても、目を背けてただ歩き去るだけの、90年代のアイルランドがこの映画の舞台。

 一児の母でもあり、サンデー・インディペンデント紙の人気記者でもある、ヴェロニカ・ゲリンは、麻薬マフィアの取材を敢行する。徐々に本丸に迫って行くヴェロニカ、それを脅威に感じたマフィアのボスは、ヴェロニカの暗殺を試みる。しかし、その暗殺は未遂に終わる。暗殺の恐怖におののきながらも決してひるまず、取材を続け巨悪を告発するヴェロニカ。その様子を他の記者たちは野心家と冷笑する。

 議会もメディアも国民もヴェロニカの告発を片目で捉えながらも、なかなか重い腰を上げようとしない。そして、ヴェロニカが巨悪の心臓部に手をかけたその時に、彼女はマフィアによって暗殺されてしまう。ヴェロニカの凄惨な死を目の当たりにして、漸く国民も議会もメディアも声を上げはじめる。

 実在の人物、ヴェロニカ・ゲリンの物語は、今の日本の状況に多くのメッセージを投じています。不正に果敢に立ち向かう勇気と恐怖、勇気ある告発を支える家族や友人の親愛。ジャーナリストが恐怖に克ち伝える動機を支えるのも、私たち国民の支持や行動であり、また、ジャーナリストに限らず、私たちが身近で遭遇する不正にノーと言う勇気、それを支えるのも身近な人々との連帯なのだということを感じずにはいられません。

 偽装マンション事件で一人消され、ライブドア事件でまた一人。石井紘基衆議院議員暗殺など、巨悪を知ったもの、巨悪に肉迫した者は消され、暴力的手法によりジャーナリスト達の口は封じ込められている。身近な不正に対する糾弾もリストラという恐怖でその芽を摘まれている。勇気ある告発を促すのも支えるのもまた私たち自身であることを認識させられます。
[PR]
by pantherH | 2006-01-22 23:51 | 映画

The Edukators

 時事をcatch upするのはなかなか大変。違和感は感じていても、うまく文章にできないうちに、時事ものは過ぎ去って行く。
 そんなわけで、今日も時事とは関係なく、ちょっと前の映画の紹介(ネタバレしないように書くのってむずかしい〜、してたらごめんね)。

 「ベルリン・僕らの革命」(原題:The Edukators) (ハンス・ワインガルトナー監督)というドイツの映画を紹介します。「グッバイ・レーニン」や「ラベンダーの咲く庭で」で一躍注目若手俳優になった、ダニエル・ブリュールが主演の映画です。

 正義感の強いヤン(ダニエル・ブリュール)は、グローバル企業のナイキが、安い労働力としてアジアの子どもたちを働かせている実態などを、街頭で訴える活動をしています。さらに彼は友人ピーター(スタイブ・エルシェッグ、硬派ないいヤツです)と密かにお金持ちの住む邸宅に夜中こっそり忍び込み、部屋の模様替えをし、「ぜいたくは終わりだ」のメッセージを残す「テロ活動: The edukators」をしています。この活動の掟は、「絶対に盗まない」こと。
 友人が旅行で不在のとある日、ヤンはピーターの恋人ユール(ジュリア・ジェンチ)と仲良くなり彼女の悩みを知ることになります。その悩みとは、アウトバーンでベンツと接触事故を起こし、弁償費用として100万ユーロの借金を負ってしまい、毎月ウエイトレスのアルバイトで稼いだ費用も借金の返済にとられ、住み慣れたアパートから手頃なアパートへ引っ越さなくてはならない、ということでした。同情したヤンはピーターと二人だけの秘密、「The edukators」のことをユールに話してしまいます。それを聞いたユールは事故相手の生活を知りたいと言います。彼女を「テロ活動」に巻込むことにためらっていたヤンでしたが、二人で忍び込むことになりました。プール付きの家、何台もある高級車、ビンテージもののワイン。彼女が青春の大部分を捧げている借金の種ベンツは、資産家の男にとって道楽にすぎない現実を目の当たりにし、二人の模様替えはエスカレートして行きます。
 首尾よく「活動」を終え上機嫌に帰宅した二人。しかし、ユールの携帯電話が見当たりません。足がついて二人は犯罪者になってしまうかもしれない・・・。
 そこから物語は急展開。あとは観てのお楽しみ。

 「いまの世の中、複雑すぎてなにが諸悪の根源なのか、何に怒っていいのか分からない。」という主張に象徴される三人の若者の抱える閉塞感。革命といいながらも、ナイーブで、大それたことはできない自分。無関心な人々への啓発活動をしてはいるけど、どこまでも募る無力感。昔は反体制活動あったからいいよなー、今は犯罪だもの。この気持ちは、私を含めた今日の反体制の人々が抱えている気持ちに重なるのではないかなあ。
 一方、「昔は俺も反体制活動にどっぷりつかってたんだがな。みんな恋愛も楽しんどったよ」と語る資産家。人生の酸いも甘いも噛み締めて魅力的ですらある資産家に、団塊の世代が重なって見える。
 30数年前のあの熱はいったい何?
 なぜ、おなじ人が、今押し黙っているの?
 ・・・・・・。
 
 全編を貫く、もどかしさと危なっかしさに溢れた、友情と愛情の糸が織りなす青春物語。
 
 わたしはこの映画かなり好きです。若者の独善さがいい。映画に溢れる人に対する柔らかい視線がいい。紆余曲折を経て、緩いけど堅い関係を構築する若者。ラストも小気味いい。若いっていいなあ。瑞々しい感受性。イノセントな理想主義。それゆえに溢れる独善。ちょっと照れくさそうに振り返ってしまう、自分の青春が思いだされます。
 こんなふうに思う自分はかなりアナーキーなのかしらん。

 ところでなぜに今頃こんな映画を思いだしたのでしょう???
 こたえは、最近無性ーに、生駒の山から降り注がれる暴力に抗したい気持ちになるからでした。
 よくわからん・・・という人は是非みてね。
[PR]
by pantherH | 2005-10-28 02:06 | 映画